社長、その溺愛は計算外です
第6話 煌びやかな夜の、本音
一週間後。土曜日の夕方。
支度をしながら、私は何度もクローゼットの前に立った。
婚活パーティーで着たパステルピンクは、もう違う。仕事のスーツでもない。
圭佑さんの世界を初めて見に行く夜に、私が選ぶべき一着は何だろう。
迷った末に手に取ったのは、深いネイビーのドレスだった。
去年、一人で買って、一度も着ていなかった。誰かと行く場所が、なかったから。
鏡の前で袖を通すと、思ったより自分に馴染んでいた。
これが、今の私だ。誰かのために選んだのでも、誰かに選ばれるために選んだわけでもない。ただ、今夜の自分として選んだ一着。
「行ってきます」
誰もいない部屋に、小さく言った。
◇
少しして、圭佑さんが自宅の最寄り駅まで迎えに来てくれた。
「お待たせしました」
「いいえ」
私の姿を見た瞬間、彼の目がほんの少し細くなった。
「……似合っています」
「ありがとうございます」
「似合っているどころじゃない」
圭佑さんが、低い声で言い直した。
「今夜、他の男性に見せるのが惜しいです」
「……ふふ。それを言ったら、私を連れて行けないじゃないですか」
「そうですね」
彼が、私のコートを手に取った。
「それでも、連れて行きます。梓さんに、僕の世界を見てほしいから」
その言葉の意味を、私はまだ分からなかった。