社長、その溺愛は計算外です

第6話 煌びやかな夜の、本音


一週間後。土曜日の夕方。

支度をしながら、私は何度もクローゼットの前に立った。

婚活パーティーで着たパステルピンクは、もう違う。仕事のスーツでもない。

圭佑さんの世界を初めて見に行く夜に、私が選ぶべき一着は何だろう。

迷った末に手に取ったのは、深いネイビーのドレスだった。

去年、一人で買って、一度も着ていなかった。誰かと行く場所が、なかったから。

鏡の前で袖を通すと、思ったより自分に馴染んでいた。

これが、今の私だ。誰かのために選んだのでも、誰かに選ばれるために選んだわけでもない。ただ、今夜の自分として選んだ一着。

「行ってきます」

誰もいない部屋に、小さく言った。



少しして、圭佑さんが自宅の最寄り駅まで迎えに来てくれた。

「お待たせしました」

「いいえ」

私の姿を見た瞬間、彼の目がほんの少し細くなった。

「……似合っています」

「ありがとうございます」

「似合っているどころじゃない」

圭佑さんが、低い声で言い直した。

「今夜、他の男性に見せるのが惜しいです」

「……ふふ。それを言ったら、私を連れて行けないじゃないですか」

「そうですね」

彼が、私のコートを手に取った。

「それでも、連れて行きます。梓さんに、僕の世界を見てほしいから」

その言葉の意味を、私はまだ分からなかった。
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