社長、その溺愛は計算外です
会場は、都心の高層ホテルの最上階だった。
エレベーターの扉が開いた瞬間、私は息を呑んだ。
シャンデリアの光が、広大な会場を満たしている。
床は大理石で、天井は吹き抜け。壁際には生花のアレンジメントが並び、ドレスコードに従ったゲストたちが、シャンパンを手に談笑している。
婚活パーティーとは、何もかもが違った。
あの時は、誰かに選ばれるために必死に自分を飾り立てる、「市場」のような熱気に当てられていた。
けれど今夜のこの会場は、そんなあがきさえ必要としない人々の場所だ。
ここにいる者たちは、選ばれる側でも、選ぶ側ですらない。
最初から「そこにいることが当たり前」の人間たち。
圭佑さんは、この場所の空気を、当然のものとして纏っている。
私は、一瞬だけ足が止まった。
この人の世界は、こんなに遠いところにあったのか。
彼が纏う完璧な空気が、まるで高い壁のように私との間を隔てている気がして、私は思わずバッグの持ち手を強く握りしめた。
「大丈夫ですか?」
圭佑さんが、私の様子に気づいて小声で尋ねた。
「……はい」
「緊張していますか」
「少しだけ」
正直に答えると、彼が私の手を取った。
「梓さんは、梓さんのままでいい。慣れなくていいです。僕がそばにいますから」
その一言で、止まっていた足がようやく動いた。