社長、その溺愛は計算外です

会場に入ると、すぐに人の波が圭佑さんを囲み始めた。

「桐原さん、今年のKIRIHARA TECHは凄まじいですね」

「次の展開、業界全体が注目していますよ」

次々と話しかけてくる人々に、圭佑さんは淡々と、しかし的確に応対していく。

仕事の顔だ。私が会議室で見てきた、隙のない社長の顔。

私は少し離れたところに立って、シャンパングラスを手に持ったまま、その様子を眺めていた。

あの人が、この場所にいる。

当たり前のように、完璧に。

それなのに、時々、会話の合間に視線がこちらに向く。

「いるか」と確認するように。私が目を合わせると、表情がほんの少しだけ和らぐ。

その小さな変化が、私だけに向けられているのだと思うと──さっきまでの「場違いかもしれない」という感覚が、少しずつ薄れていった。



パーティーが始まって間もなく、主催者側の男性がマイクを持って壇上に立った。

「本日は、特別にご挨拶をいただける方がいらっしゃいます。KIRIHARA TECHの桐原圭佑さん、お願いできますか」

会場から、温かな拍手が起こった。

圭佑さんが、迷いのない所作で壇上へと向かう。

マイクの前に立った瞬間、場の空気が変わった。

誰もが、彼の方を向いた。

「本日は、お招きいただきありがとうございます」

落ち着いた声が、広い会場に満ちる。会議室で聞いてきた声と同じはずなのに、この空間に放たれると、まるで別の響きを持つ。
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