社長、その溺愛は計算外です
振り返ると、四十代と思われる男性が立っていた。名刺入れを手にして、いかにも営業、という笑顔だった。
「はじめまして。デジタルフォワードの佐々木と申します。桐原さんとは、旧知の仲でして──よろしければ、お名前を」
「新谷梓と申します。ITコンサルティング会社に勤めております」
「おお、それはまた。実は、私どもも──」
名刺を差し出されたその時、圭佑さんが戻ってきた。
シャンパングラスを二つ持ったまま、佐々木さんと私を交互に見て、一瞬だけ目が鋭くなった。
「佐々木さん」
「お、桐原さん。素敵なお連れ様ですね。少しお話を──」
「彼女は、僕のパートナーです」
圭佑さんが、穏やかに、しかしはっきりと言った。
パートナー、という言葉が胸の中で響いた。
仕事上の呼び方だと分かっている。でも、この場所で、この人の隣で、そう呼ばれることの意味が──うまく整理できなかった。
「今夜は、仕事の話はなしにしていただけますか。オフの時間ですので」
「これは失礼しました」
佐々木さんが、苦笑しながら引いていった。
その背中を見送る圭佑さんの横顔は、いつもより少しだけ険しかった。
「すみません、少し離れてしまいました」
圭佑さんが、私にグラスを渡しながら言った。
「いいえ、大丈夫です」
「何か、失礼なことを言われませんでしたか」
「名刺交換をしようとしていただけです」
「そうですか」
彼が、私の隣に立つ。
触れ合うか触れ合わないか、そのギリギリの距離。
さりげなく、しかし明確な意思を持って。
俺の隣はここだ、と言うように。
◇
パーティーが中盤に差し掛かった頃、一人の女性が圭佑さんに近づいてきた。