社長、その溺愛は計算外です

「どうしても、君を手放す気になれないんだ」

「……っ」

胸の奥が、大きく揺れた。

肺の空気が、全部抜けていくような感覚がする。

今まで婚活で、何十人と会ってきた。

誰もが「好きなものは何ですか」「どんな休日を過ごしていますか」と聞いた。

この人は、そんなことを一度も聞かなかった。

『追い詰められた時にどう動くか、それだけで十分だ』と言った。

あの会議室の私を見て、「もう分かった」と言い切った。

さらに今──真っ向から反論した私を、怒るどころか「もっと聞きたい」と言った。

婚活という場で、誰も見ていなかったものを、この人だけが最初から見ていた。

「だから……」

一歩、距離を詰める。

逃げ道を塞ぐように、壁の横に手がつかれる。

短い沈黙のあと。

「今夜から──君は、俺のものだ」

今、『俺のもの』って──!?
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