社長、その溺愛は計算外です
三度目の着信があったのは、オフィスに一人きりになった夜のことだ。
静まり返った部屋で、無機質な振動音が机を叩く。
私はそれを、机の引き出しの奥へと押し込んだ。
木の板に遮られ、こもった音に変わった振動。それが途切れるまでの数十秒間が、永遠のように長く感じられた。
暗い引き出しの中で、音が消える。
静寂が戻った瞬間、私はようやく、浅い呼吸を吐き出すことができた。
彼の声を聞いたら、きっと許してしまいそうで。
真実を聞く勇気が、まだ持てなくて。
そうやって、何一つ変えられないまま、また一日が終わった。
◇
木曜日の朝。
出勤前に、春菜から電話がかかってきた。
『梓、大丈夫? 記事、昨日見たんだけど』
春菜の声には、心配が滲んでいた。
「……うん。私も数日前に知った」
『本人には、確認した?』
「まだ……」
少しの間があった。
『梓。このまま全部なかったことにして、また婚活サイトに登録し直すの?』