社長、その溺愛は計算外です

三度目の着信があったのは、オフィスに一人きりになった夜のことだ。

静まり返った部屋で、無機質な振動音が机を叩く。

私はそれを、机の引き出しの奥へと押し込んだ。

木の板に遮られ、こもった音に変わった振動。それが途切れるまでの数十秒間が、永遠のように長く感じられた。

暗い引き出しの中で、音が消える。

静寂が戻った瞬間、私はようやく、浅い呼吸を吐き出すことができた。

彼の声を聞いたら、きっと許してしまいそうで。

真実を聞く勇気が、まだ持てなくて。

そうやって、何一つ変えられないまま、また一日が終わった。



木曜日の朝。

出勤前に、春菜から電話がかかってきた。

『梓、大丈夫? 記事、昨日見たんだけど』

春菜の声には、心配が滲んでいた。

「……うん。私も数日前に知った」

『本人には、確認した?』

「まだ……」

少しの間があった。

『梓。このまま全部なかったことにして、また婚活サイトに登録し直すの?』
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