社長、その溺愛は計算外です

「……っ」

春菜の言葉に、指先が冷たくなった。

他の誰かを探して、またゼロから「条件」を並べ立てる日常に戻るなんて、想像しただけで吐き気がする。

それほどまでに、私の心にはもう、あの不器用なほど真っ直ぐな彼が深く根を張ってしまっていた。

「……ううん。ちゃんと、聞いてみる」

『そうしなよ。彼にも、話せなかった理由があるかもしれないし』

「……そうだね」

電話を切った後、私は深呼吸をして、スマホをバッグに入れた。



昼休み。

コンビニでサンドイッチを買って、非常階段の踊り場に腰を下ろした。

今は、誰にも会いたくなかった。

ぼんやりと壁を見ながら、食べているのか食べていないのか分からないまま、時間が過ぎていく。

学生の頃から、私は『頑張っている自分』でしか、人に好かれないと思っていた。

だから、成果を出し続けた。弱音を吐かず、誰かに頼らなくても平気な顔をした。

そんな中、圭佑さんは違った。

会議室での私を見て「十分だ」と言った。弱いところを見せてくれてありがとうと言った。

婚活パーティーで「普通の会話が分からない」と首を傾げながら、誰よりも真っ直ぐに私を見ていた。

あの優しさは、嘘じゃなかった。今でも、そう信じている。

本物だったからこそ、あの日々が愛しい。

だからこそ──こんなにも、苦しい。

スマホに、また着信が来た。

圭佑さんの名前。
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