社長、その溺愛は計算外です
「……っ」
春菜の言葉に、指先が冷たくなった。
他の誰かを探して、またゼロから「条件」を並べ立てる日常に戻るなんて、想像しただけで吐き気がする。
それほどまでに、私の心にはもう、あの不器用なほど真っ直ぐな彼が深く根を張ってしまっていた。
「……ううん。ちゃんと、聞いてみる」
『そうしなよ。彼にも、話せなかった理由があるかもしれないし』
「……そうだね」
電話を切った後、私は深呼吸をして、スマホをバッグに入れた。
◇
昼休み。
コンビニでサンドイッチを買って、非常階段の踊り場に腰を下ろした。
今は、誰にも会いたくなかった。
ぼんやりと壁を見ながら、食べているのか食べていないのか分からないまま、時間が過ぎていく。
学生の頃から、私は『頑張っている自分』でしか、人に好かれないと思っていた。
だから、成果を出し続けた。弱音を吐かず、誰かに頼らなくても平気な顔をした。
そんな中、圭佑さんは違った。
会議室での私を見て「十分だ」と言った。弱いところを見せてくれてありがとうと言った。
婚活パーティーで「普通の会話が分からない」と首を傾げながら、誰よりも真っ直ぐに私を見ていた。
あの優しさは、嘘じゃなかった。今でも、そう信じている。
本物だったからこそ、あの日々が愛しい。
だからこそ──こんなにも、苦しい。
スマホに、また着信が来た。
圭佑さんの名前。