社長、その溺愛は計算外です
断る理由はない。何より、彼女が私に何を話すのか知りたかった。
上司に外出の許可を取って、私たちは近くのカフェに向かった。
奥の席に向かい合って座ると、麗華さんが口を開いた。
「改めまして。圭佑さんの婚約者の、水沢麗華です」
その言葉を聞いた瞬間、背中が冷えた。
婚約者──。やはり、本当だったのだ。
「両家の間では、既に話が決まっております」
麗華さんがカップに手を添え、続けた。その目には、感情の揺れが一切なかった。
「新谷さん」
「……はい」
「単刀直入に申し上げます」
彼女の声のトーンが、低くなった。
「年内に、婚約発表の場が設けられます。十二月の第一週。桐原・水沢両家の関係者が集まる席で、正式に発表される予定です」
十二月の第一週。あと二ヶ月も、ない。
「圭佑さんがどのようにお伝えしているか存じませんが、これは両家の間で正式に決まったことです。桐原会長も、発表に向けて動いていらっしゃいます」
桐原会長──圭佑さんの父親。
「会長が……」
「ええ」
麗華さんが、初めて私を真っ直ぐに見た。
「桐原会長は、グループの行く末を非常に重視されています。圭佑さんの周辺については、常に把握されているとお考えください」
常に把握されている。
その言葉の意味を、私は理解した。
圭佑さんと私のことも、すでに会長の耳に入っているかもしれない──ということだ。