社長、その溺愛は計算外です

「新谷さん」

麗華さんが、カップをソーサーに静かに置いた。

「圭佑さんは、将来桐原グループ全体を背負って立つ方です。五万人の従業員の生活が、彼の判断に懸かっています」

「……」

「率直に申し上げます。あなたは、彼の隣に立てる人間ですか?」

「え……」

「桐原グループの次期会長の妻として、財界の場に立ち続けられますか? 桐原家の名を背負い、五万人の従業員の生活を守る覚悟が、あなたにありますか」

刃のような問いだった。

丁寧な言葉の皮を被っているのに、その奥にあるのは明確な否定だった。

あなたには、無理でしょう。そう言っている。

私は、唇を噛んだ。

反論したかった。でも、どこから返せばいいのか、分からなかった。

「軽い気持ちで、彼に近づかないでください」

麗華さんが、続けた。

「それだけです」

沈黙が流れる。

「あの、失礼ですが」

私は勇気を出して尋ねた。

「麗華さんは……圭佑さんを、愛していらっしゃるんですか?」
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