社長、その溺愛は計算外です

私の問いに、麗華さんの手が一瞬止まった。カップが、ソーサーの上で小さく音を立てる。

彼女の目が、ほんの一瞬だけ伏せられた。

次の瞬間には、もう元の表情に戻っていた。ただ、確かに見た。

答えなかったのではなく、答えられなかったのかもしれない。

そう思った瞬間、麗華さんという人間の輪郭が、少しだけ変わった気がした。

「それは、関係のない問いです」

「……関係ない?」

「ええ」

麗華さんが、言い切った。

「新谷さんにお伝えしたいのは、感情の話ではなく、事実の話です。十二月第一週に婚約発表がある。桐原会長が動いている。それだけです」

感情ではなく、事実。

その割り切り方が、かえって怖かった。

「新谷さん」

麗華さんが立ち上がった。

「あなたには、自由がある。だけど、その自由には覚悟が必要です」

彼女は、丁寧にお辞儀をした。

「どうか、よくお考えください」

そう言い残して、麗華さんはカフェを去っていった。
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