社長、その溺愛は計算外です
金曜日の午後六時。
私は、Bar Crescent Moonへと向かった。秋の夕暮れは早く、外はもう薄暗くなり始めている。
バーの入口の前で、私は一度立ち止まった。
ガラス越しに、窓際の席に圭佑さんが座っているのが見える。いつものスーツ姿だったが、どこか疲れたような、決意に満ちた目をしている。
テーブルの上には、既に飲み物が二つ置かれていた。
私が来ると、信じていてくれたんだ。
その事実が、胸に刺さった。信じていてくれたのに。それなのに、どうして──。
深呼吸をして、私はドアを開けた。
圭佑さんが顔を上げて、私を見つけた。安堵と不安が入り混じったような表情になった。
「梓さん」
彼が立ち上がろうとした。だが、私は先に口を開いた。
「昨日、水沢麗華さんにお会いしました」
その瞬間、彼の顔色が変わった。
「麗華に……会ったのか」
「はい。そして、あなたに婚約者がいることを知りました。十二月第一週に、婚約発表があることも」
圭佑さんは、目を伏せた。
「どうして、教えてくれなかったんですか?」
「梓さん……」
「座ってください。話を聞きます」
私は席に着いた。テーブルを挟んで、二人で向かい合う。
こんなに近くにいるのに、とても遠く感じる。