社長、その溺愛は計算外です
「すまない」
圭佑さんが、低く言った。
「謝って済む問題じゃないことは、分かっています」
彼が両手を組み、テーブルの上に置いた。その指先に、白くなるほど力が入っているのが見える。
「婚約は、父が決めたことです。桐原グループの利益のため、水沢財閥との結びつきを強めるための──そういう、抗えない決定だった」
「抗えない決定……。それなら、最初から私を巻き込まないでほしかった」
私の呟きに、圭佑さんの肩が目に見えて震えた。
「圭佑さんは、それを良しとしていたんですか?」
「……ずっと、断り続けてきた。でも、父は聞かない」
彼が顔を上げた。
「KIRIHARA TECHを立ち上げたのも、父親の敷いたレールを外れたかったからだ。それでも父は、僕をグループに引き戻そうとする。今回の件もその一環だった」
圭佑さんが続ける。
「……父には、梓さんのことをまだ話していない。でも、もう知っているかもしれない」
その言葉が、麗華さんの『常に把握されているとお考えください』という言葉と重なった。
「それなら、なぜ私に隠していたんですか」
その問いに、圭佑さんは唇を一度引き結んだ。
「君には、ありのままの僕を見てほしかったから」
彼の声に、切実さが滲む。
「財閥の御曹司としてじゃなく、ただの桐原圭佑として見てほしかった。名前や家柄ではなく、僕自身を……」
「それって」
私の声が、震えた。
「私を、信じていなかったということでしょう?」
「違う、そうじゃない」
「嘘をつかれていたんです。ずっと」
「梓さん──」
「婚活パーティーの時、三週間前の会議室での私を見て『十分だ』と言ってくれたのは、あなたじゃないですか!」
込み上げてくる涙を、怒りで押し殺す。