社長、その溺愛は計算外です
「あの言葉は、何だったんですか? 私には、あなたの本当の立場を知る権利もなかったんですか?」
圭佑さんが身を乗り出し、私の手を掴もうとした。けれど、私は咄嗟に手を引っ込めた。
「梓さん、お願いだ。もう少しだけ時間をくれないか。必ず、すべてを解決してみせる」
「……解決、ですか」
その言葉が虚しく響く。
私は、彼の指先を見つめた。
麗華さんの冷徹なまでの瞳。左手に光っていた、逃げようのない現実の象徴。
「麗華さんは言っていました。あなたの背後には、五万人の従業員の生活がかかっていると。圭佑さん、もしあなたがその責任のために、私ではなく彼女を選ぶというのなら、私はそれを『間違っている』とは言えません」
心臓が、内側から張り裂けそうだった。
本当は「私だけを選んで」と、なりふり構わず泣きつきたい。でも、そんなわけにはいかない。
「あなたは、責任感のある人だから。だから、私は惹かれたんです」
私は椅子を引いた。
本当は、立ち上がれなかった。
でも、今ここにいたら、また許してしまう。彼の苦しそうな顔を見たら、全部飲み込んでしまう。
「今のあなたを、そのまま信じることはできません。私、考える時間が欲しいです」
「待ってくれ」
圭佑さんが、私の腕に手を伸ばした。
「梓、お願いだ。俺は──」