没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
その知らせは、あまりにも突然だった。

屋敷の空気が、どこか張り詰めていると感じたのは、ほんの少し前のこと。

使用人たちの足音がやけに慌ただしく、誰もが視線を合わせようとしない。

胸騒ぎがして、私は父の執務室へと向かった。

扉の前で一瞬ためらい、それでも意を決してノックをする。

「お父様、セレスです」

返事は、すぐにはなかった。

やがて――重く、低い声が返る。

「……入れ」

扉を開けた瞬間、息が詰まった。

そこにいた父は、いつもの威厳ある公爵ではなかった。

背筋はかすかに丸まり、机に手をついたまま、深く俯いている。

「お父様……?」

近づくと、父はゆっくりと顔を上げた。

その目には、見たことのない疲労と――諦めが浮かんでいた。

「セレス……すまない」
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