没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
お母様の声に、はっと顔を上げる。

「あなたの幸せを、選んでいいのよ」

優しく、そう言われる。

けれど――

(私の、幸せ……?)

それが何なのか、分からない。

皇太子殿下との結婚。誰もが羨む未来。

でも。

(それで、いいの……?)

胸の奥に、小さな違和感が残る。

私は、“女神”と呼ばれている。

困っている人を放っておけない、ただの人間なのに。

それでも、その力がある限り――私は、人を救うことができる。

(それを、手放してまで……)

本当に、このまま進んでいいのだろうか。

皇太子妃としての未来と、聖女としての在り方。

どちらか一つしか選べないのだとしたら――

(私は……どちらを、選ぶの……?)

答えは、まだ出なかった。
< 9 / 36 >

この作品をシェア

pagetop