没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
思わず一歩、後ずさる。

つい昨日まで、何も変わらない日常があったはずなのに。

「急ではない。……ただ、お前に知らせていなかっただけだ」

父の言葉が、胸に刺さる。

「守りたかったのだ。お前だけは……」

「お父様……」

それ以上、言葉が出てこない。

守られていた現実が、今、音を立てて崩れていく。

「すぐに、この屋敷も出ることになる」

父は淡々と告げる。

「もう、我々は貴族ではない」

その言葉が、決定的だった。

ヴァルディア公爵令嬢として生きてきた私のすべてが、否定されたような気がした。

(……じゃあ、私は……)

何者でも、なくなる。胸の奥が、空っぽになる。

「セレス」

父が私の名を呼ぶ。

「お前には……つらい思いをさせる」

その声には、悔しさが滲んでいた。

私は首を振ることしかできなかった。

「いいえ……」

何が“いいえ”なのか、自分でも分からなかった。
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