没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
驚く間もなく、額に柔らかな感触が落ちる。

――キス。一瞬の、触れるだけの口づけ。

まるで、何かを確かめるような。

まるで――別れを告げるような。

言葉は、なかった。

それだけで、すべてが終わる。

殿下は何も言わず、そのまま踵を返す。

呼び止めることもできないまま、背中が遠ざかっていく。

(……好きだった)

胸の奥で、静かに言葉が零れる。

あの人となら、歩いていけると思っていた。

たとえ言葉が少なくても、距離があっても。

それでも、隣にいられるなら――それでいいと。

(でも……)

それは、私だけの想いだったのかもしれない。

最初から、最後まで。

――ただの、片想い。

指先が震える。

けれど涙は、流さなかった。

流してしまえば、本当に終わってしまう気がしたから。

だから私は、ただ静かに立ち尽くした。
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