没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
小さく呟かれたその言葉に、胸の奥が痛む。

(やっぱり……)

この町には、治療を受けられない人が多い。

高い治療費。薬代。

それらを払えない人たちは、ただ耐えるしかない。

だから、ここに来る。

「大丈夫です」

私はそっと彼女の手を握る。

「少し、楽になりますから」

目を閉じ、力を込める。

熱が、痛みが、私の中へ流れ込んでくる感覚。

それでも――

(この人が楽になるなら)

じんわりと光が広がり、やがて彼女の呼吸が落ち着いていく。

「……あれ……?」

頬に赤みが戻り、驚いたように自分の体を見つめる。

「楽に……なってる……」

その声を聞いた瞬間、ほっと息をついた。

「無理はしないでくださいね」

そう伝えると、彼女は何度も頭を下げた。

(これで、いい)

ここには、私を必要としてくれる人がいる。

“女神”なんて呼ばれなくてもいい。

皇太子妃でなくてもいい。

ただ――目の前の人を救えるなら。
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