没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
「どうすればいいんだ……」

「子どももいるのに……」

不安と絶望が、じわじわと広がっていく。

その空気の中で、私はそっと井戸に手を伸ばした。

(私に、できる……?)

穢土を浄化するほどの力を、私はまだ使ったことがない。

それでも――

(放っておけない)

祖母の言葉が、胸の奥で響く。

困っている人を見たら、手を差し伸べなさい。

私は目を閉じ、意識を集中させた。

手のひらから、ゆっくりと光を流し込む。

黒い靄に触れた瞬間、じり、と焼けるような感覚が走った。

(……っ)

思わず息が詰まる。

強い。これまでの治癒とは、比べものにならないほど。

けれど――

(やめない)

さらに力を込める。

光が、じわじわと穢れを押し返していく。

黒が、白に溶けるように消えていく。
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