没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
感情を見せることもほとんどない。

――けれど。

「……無理はするな」

ぽつりと落とされたその言葉に、私は思わず顔を上げた。

次の瞬間、殿下の手が私の手を取る。

(え……)

一瞬だけ、驚きで息が止まる。

冷たい人だと思っていたのに、その手は思いのほか温かくて……ほんの少しだけ、力がこもっていた。

「殿下……?」

戸惑って呼びかけると、殿下はすぐに手を離し、何事もなかったかのように視線を逸らす。

「行くぞ。時間だ」

いつも通りの、簡潔で淡々とした声音。

……でも。

(今のは……)

胸の奥が、かすかに揺れる。

周囲から見れば、完璧な関係。

女神と呼ばれる令嬢と、冷静沈着な皇太子。

誰もが羨む婚約だった。
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