没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
「……っ」

(殿下……)

そこにいたのは、間違いなくアルセイド殿下だった。

けれど。

(……違う)

かつて、花園で静かに佇んでいた人とは、まるで別人のようだった。

まっすぐに伸びた背筋。鋭く研ぎ澄まされた視線。

一切の隙を感じさせない、圧倒的な存在感。

――それが、“皇太子”としての姿。

「はっ」

深く、力強い声が響く。

「この命に代えても、聖女をお守りし――必ず浄化を完了させます」

その言葉には、一切の迷いがなかった。

ただ任務を遂行する者の、揺るがぬ決意だけがある。

(……どうして)

胸の奥が、ざわりと揺れる。

あの時、屋敷で見せた冷たい表情。

そして、最後に触れた温もり。

すべてが一瞬で蘇る。

(もう……終わったはずなのに)

婚約は破棄された。もう、関係はないはずなのに。
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