没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
宮殿を出てから、どれくらいの時間が経ったのだろう。

馬車の中には、重い沈黙が流れていた。

向かいに座るのは、アルセイド殿下。

窓の外へと視線を向けたまま、一言も発さない。

車輪の軋む音と、規則正しい揺れだけが、やけに大きく感じられる。

(……何か、話さないと)

そう思うのに、言葉が浮かばない。

婚約者だった頃でさえ、会話は多くなかった。

それでも、今ほどの距離はなかったはずなのに。

(今は……)

もう、何を話していいのか分からない。

それでも、このままではいけない気がして――

「……あの」

意を決して、声を出す。

殿下の視線が、ゆっくりとこちらへ向いた。

「……何だ」

短い返答。それだけで、少しだけ息が詰まる。
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