没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
そして――

(殿下と、二人で)

その事実が、胸をざわつかせる。

意識しないようにしても、どうしても気になってしまう。

「……景色」

ぽつりと、言葉が漏れる。

「綺麗ですね」

自分でも、どうしてそんなことを言ったのか分からない。

ただ、この沈黙に耐えられなかっただけかもしれない。

少しの間を置いて、殿下が口を開く。

「……ああ」

それだけ。けれど、その声は、どこか柔らかかった気がした。

(……え……?)

思わず顔を上げる。

けれど、殿下はすでに視線を外に戻していて、表情は見えない。

(今の……)

気のせい、だろうか。もう一度、何か話そうとする。

けれど、言葉は続かない。結局、また沈黙。

それでも、不思議と。

(……嫌じゃ、ない)

重くて、苦しいはずのこの空気が。

どこか懐かしくて――ほんの少しだけ、安心してしまう自分がいた。
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