没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
顔を上げると、殿下が立っていた。

「……ほら」

差し出されたのは、同じ花。

「え……」

戸惑いながら受け取る。

「……好きだろう」

ぽつりと落とされたその言葉に、息が止まる。

(どうして……)

そんなことまで、知っているの?

言葉が出ないまま見上げると、殿下はすぐに視線を逸らした。

「……戻るぞ」

それだけ言って、歩き出す。

その背中を見つめながら、胸の奥がじんわりと熱くなる。

――そして、夕方。

一日の移動を終え、空がゆっくりと橙色に染まっていく頃。

「……来い」

短く呼ばれて、私は殿下の隣へと歩み寄る。

視線の先には、広がる夕焼け。

「……綺麗だな」

静かな声。

風が、優しく髪を揺らす。

「はい……とても」

隣に立つ距離は、ほんのわずか。

それなのに、触れられない距離。
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