没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
けれど――

(……少し、広すぎる……)

予想以上に範囲が広い。

体の奥に、じわじわと疲労が溜まっていくのが分かる。

その時だった。ざわり、と空気が揺れた。

「……下がれ」

低い声と同時に、殿下の腕が私の前に出る。

次の瞬間。

「きゃあああっ!」

目の前に、黒い影が飛び込んできた。

牙を剥き、濁った瞳でこちらを睨む――魔物。

(……っ!)

体が動かない。恐怖で、足がすくむ。

その瞬間――鋭い風を切る音が響いた。

――ザンッ。

剣が振り抜かれ、魔物の体が一瞬で裂かれる。

黒い影は、そのまま地面に崩れ落ちた。

「……大丈夫か?」

すぐそばで、低い声がする。

気づけば、私は殿下の腕の中にいた。

(……え……)

片腕で引き寄せられ、しっかりと抱き寄せられている。
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