没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
思わず返事をするけれど、それ以上言葉は続かない。

(どうしよう……)

会話を続けなければいけないと分かっているのに、何を言えばいいのか分からない。

殿下は多くを語らない人だ。

必要なこと以外、口にしない。

だからこそ、沈黙が重く感じる。

それでも――

(……不思議)

嫌な空気では、ない。

むしろ、どこか穏やかで……落ち着いている。

それは夜会でも同じだった。

華やかな音楽と笑い声が響く中、私は殿下の隣に立つ。

婚約者として、当然の役目。

視線を向ければ、令嬢たちが羨望の眼差しを向けてくるのが分かる。

――皇太子の隣。それは、誰もが望む場所。

「……楽しそうだな」

隣で、殿下がぽつりと呟く。

「あ、は、はい……皆様、とても」

私は慌てて答える。

けれど、それだけで会話は終わる。
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