没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
続かない。

広い会場の中で、まるで二人だけが取り残されたような静けさ。

それでも殿下は、無理に会話を続けようとはしない。

ただ、私の隣にいる。

それだけ。

(……やっぱり、不思議な方)

冷徹だと噂される皇太子。

近寄りがたい、感情のない人だと。

けれど――

(怒っているところを、一度も見たことがない)

誰かを叱責する姿も、声を荒げる様子も、私は知らない。

むしろ、どんな時でも静かで、一定で。

そして――ほんのわずかに、優しい。

今日も、花園を歩く私の足元に視線を落とし、

「……段差だ」

短くそう告げてくれる。

ほんの一言。けれど、その言葉で私は躓かずに済む。

(どうして……)

こんなにも言葉が少ないのに。こんなにも距離があるのに。

(……優しい、と思ってしまうのは)

気のせい、なのだろうか。
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