没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
胸が、強く締めつけられる。

こんなこと、されるはずがないのに。

もう、関係は終わったはずなのに。

それでも――

(……優しい……)

離れたくないと、思ってしまう。

やがて、唇が離れる。

けれど、その余韻が消えない。

「……無茶をするな」

低く、押し殺した声。

その腕は、まだ私を抱きしめたままだった。

(……殿下……)

呼びたいのに、声が出ない。

ただ、微かに残る温もりだけを感じながら。

私は再び、深い眠りへと落ちていった。

――どれくらい眠っていたのだろう。

ゆっくりと意識が浮かび上がる。

薄く目を開けると、そこは簡素なテントの中だった。

外の灯りが、布越しにやわらかく差し込んでいる。

「……セレスティア」

低く、静かな声。

(……殿下……?)
< 54 / 91 >

この作品をシェア

pagetop