没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
視線を向けると、すぐそばにアルセイド殿下がいた。

そして――私の手を、しっかりと握っている。

「……殿下……」

かすれた声で呼ぶと、その手にわずかに力がこもった。

「……目を覚ましたか」

安堵の滲む声音。

(……よかった……)

その顔を見た瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなる。

「殿下、お怪我は……大丈夫ですか……?」

そう尋ねた瞬間、ふわり、と体が引き寄せられた。

「……っ」

驚く間もなく、強く抱きしめられる。

「君のおかげで、すっかり治った」

耳元で囁かれる声は、今まで聞いたことがないほど近くて、熱を帯びていた。

(どうして……)

胸が大きく揺れる。

こんなふうに触れられるなんて、思ってもいなかった。

「……どうして」

低く、押し殺した声。

「婚約破棄した俺を……助けた」
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