没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
その日の夕方、屋敷の一室で、お母様と向かい合っていた。

窓の外は、柔らかな橙色に染まっている。

穏やかな時間のはずなのに――胸の奥に、わずかな不安が残っていた。

「セレス、言いにくいのだけど」

静かに名前を呼ばれ、私は顔を上げる。

「何?お母様」

お母様は少しだけ視線を伏せて、それからゆっくりと言葉を選ぶように続けた。

「あなたは、その癒しの力で皆を助けているけれど……その力はね、純潔の時だけなのよ」

「……え……?」

思わず、息が止まる。

純潔の、時だけ――?

「おばあ様も、それで悩んでいたの」

お母様の声は、どこか悲しそうだった。

「人を救う力と、自分の幸せ。そのどちらかを選ばなければならないと……ずっと苦しんでいたわ」

祖母の姿が、ふと脳裏に浮かぶ。
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