没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
もう隠すことも、抑えることもしていない。

その奥にあるのは――はっきりとした“執着”。

「……俺から離れるな」

低く、命じるように。

けれどその声音は、どこか切なくもあった。

(……離れたく、ない……)

そう思ってしまう自分がいる。

どれくらいの時間、こうしていたのだろう。

言葉を交わさなくても、ただ触れているだけで満たされていく。

眠っても、目を覚ましても。

気づけば、すぐ隣にいる。

手を伸ばせば、触れられる距離。

(……こんな時間が、ずっと続けばいいのに)

そんな願いが、胸の奥に芽生える。

けれど――その甘さの裏に、何かが静かに動き始めていることを。

私はまだ、知らなかった。
< 60 / 91 >

この作品をシェア

pagetop