没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
短くそう言われて、思わず口を開けてしまう。

(……どうして……)

こんなにも自然に、距離を詰めてくるの。

顔が熱くなるのを感じながら、視線を逸らす。

けれど、逃がしてはくれない。

「……もっと食べろ」

「はい……」

優しいのに、どこか強引で。拒めない。

そして夜。テントの中で、横になると――

「こっちへ来い」

当たり前のように、腕を引かれる。

気づけばまた、抱き寄せられている。

「殿下……」

「……何も言わずに側にいてくれ」

低く囁かれ、そのまま背中に腕を回される。

逃げる隙間なんて、どこにもない。

(……でも)

不思議と、嫌じゃない。

むしろ――安心してしまう。
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