没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
振り返らなくても分かるほど、距離が近い。

「殿下、少し離れていただいても……」

「難しい話だ」

即答だった。

そのまま、私の背に手を添える。

守るため――そう言わんばかりに。

(……近い……)

鼓動が、嫌でも速くなる。

それでも殿下は、まったく気にする様子がない。

ただ当然のように、私のそばに居続ける。

その様子に、ついに口を挟んだのは、従者のモンテーロだった。

「殿下」

冷静な声が、空気を切る。

「……何だ」

「さすがに、一緒にいる時間が長すぎます」

ぴたり、と空気が止まる。

私は思わず手を止め、その場から少し離れた木陰へと身を隠した。

(……だめ……聞いちゃ……)

そう思うのに、足が動かない。

「問題はない」

殿下の声が、低く響く。

「俺は彼女を守らねばならない」

揺るがない声音。
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