没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
誰よりも優しくて、誰よりも強かった人。

困っている人を見つけると、迷わず手を差し伸べていた。

――あの背中に、私は憧れていたのに。

「あなたも、同じことで悩んでほしくないのよ」

お母様はそう言って、私の手をそっと包む。

その温もりが、かえって現実を突きつけてくる。

(……純潔の時だけ)

つまり――

(結婚、したら……)

胸の奥が、きゅっと締めつけられる。

皇太子殿下と結婚すれば、私は皇太子妃になる。

王族としての役目を果たし、宮殿の中で生きていく。

――その代わりに。

(もう、誰も……救えない)

町で出会った人たちの顔が浮かぶ。

痛みに耐えていた老婦人。不安そうに泣いていた子ども。

私の力で、少しでも笑顔になってくれた人たち。

(あの人たちを……)

もう、助けることができない。

「セレス」
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