没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
その瞬間空気が、凍りついた。

自分でも分かる。どれだけ身勝手な理由か。

聖女としての役目よりも。国よりも。

(……殿下を……選んだ)

「……お前は……」

アルセイド殿下の声が、わずかに震える。

その顔を見ることができない。ただ、目を伏せる。

「……申し訳ありません」

もう一度、そう繰り返すしかなかった。

(……これで、終わる)

そう思った。

聖女としても。そして――この人のそばにいる資格も。

すべて、失う。それでも。

(……後悔は……)

ないと、言い切れるほど強くはなかった。

胸の奥が、静かに軋む。

それでも私は、顔を上げられないまま。

ただ、その場に立ち尽くしていた。
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