没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
今はひっそりとしたその場所が、どこか懐かしく感じる。

(……戻ってきたんだ……)

聖女でもなく。皇太子妃でもなく。

ただの――セレスティアとして。

扉を閉めた、その時だった。

「セレス!」

強く呼ばれる声。

振り返ると、そこにはアルセイド殿下が立っていた。

(……どうして……)

ここまで、追いかけてきたの……?

「殿下……」

言葉を失う私に、殿下は迷いなく歩み寄る。

そのまま――強く、抱きしめられた。

「……っ」

息が止まる。逃げようとしても、腕の力はびくともしない。

「……離さない」

耳元で、低く囁かれる。

「俺は……君を放さないから」

その声は、はっきりと震えていた。

(……どうして……)

聖女じゃなくなった私を。何の価値もない私を。

それでも――
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