没落令嬢ですが聖女になった途端、婚約破棄した皇太子に溺愛されています
「……セレス」

名前を呼ばれる。

その響きが、あまりにも優しくて。

胸の奥が、熱くなる。

「……君は、俺のそばにいろ」

抱きしめる腕に、さらに力がこもる。

拒めなかった。拒みたくなかった。

「……はい……」

小さく頷く。

その瞬間、殿下の胸に顔を埋める。

伝わってくる体温が、あまりにも温かくて。

(……終わりじゃ、なかった……)

すべてを失ったはずなのに。

それでも――この人がいる。

ただそれだけで、救われてしまう。

静かな屋敷の中で。

二人は、強く抱きしめ合ったまま――離れなかった。
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