Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-

「……別に」


短く、それだけ。
素っ気ない言い方。
でも、さっきの光景が頭から離れない。


あの速さ、あの強さ。
そして、私を庇った背中……



「……ここも、そう長くは居られない」


「蒼もこの世界の人も、人間じゃ…ない、の?」


蒼はゆっくりと立ち上がった。
私はまだ地面に膝をついたまま、彼を見た。


「……あぁ。見た目はそんなに変わらないけどな」


どういう事?

聞きたいことはたくさんあるのに、キィイイっと頭の奥をかき鳴らすような耳鳴りがして、言葉を飲み込む。


風が不自然に揺れた。
いや、揺れたのではない。
空気が、ねじれたのだ。


「……来たか」


蒼の声が、一気に低くなる。
さっきまでの静寂が、嘘のように一瞬で張り詰めた。


「え……」


バチッ、バチチッ────!!


鼓膜を刺すような、静電気の弾ける音。
目の前の空間が、まるで熱せられた飴細工のようにぐにゃりと歪んだ。


「なに……こ、れ」


.
< 12 / 64 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop