Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-
ガラスにヒビが入るのではない。
空間そのものが、何か巨大な力で「引き裂かれよう」としている。
歪んだ景色の奥から、色が失われ、どす黒い「虚無」が覗く。
その「虚無」の奥に、何かがいる────
「下がれ」
蒼が私の前に立つ。
その背中は、さっき髭の男を倒した時とは違い、張り詰めた緊張に震えているように見えた。
「まだ完全には侵食されてない……」
低く呟くその言葉の意味は、分からない。
けれど、透明な歪みの奥から、何百、何千という「視線」が一斉にこちらを見た瞬間────
ゾッと全身の毛穴が逆立つような、悍ましい悪寒に襲われた。
「あれ……何?」
震える声で問いかける。
蒼は少しだけ間を置いてから、噛み殺すように答えた。
「……世界の“拒絶”だ。境界の歪み」
「境界……?」
「お前みたいに、本来存在しないものが来ると────」
一瞬、言葉が止まる。
蒼が、私を庇うように、さらに一歩前に出た。
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