Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


「……お前がここにいれば、この世界そのものが、お前を殺しにくる。……俺がどれだけ力を尽くしても、いつか、守りきれなくなる日が来る」


その言葉に、心臓が跳ねた。


「守りきれない」ことが、彼にとって一番の恐怖であるかのように聞こえたから。



「それでも……」


「…………」


「……一人で消されるのを待つのなんて、もっとキツイよ」


その場に座り込んだ。
ポロッと出た声は、さっきの勢いが嘘のように、か細く震えていた。


膝を抱えて、顔を埋める。
ドラッグストアのカウンターで、笑顔を貼り付けていた毎日。

あの場所に戻れないのも絶望だけど、ここで誰にも望まれずに消えていくのも、同じくらい絶望だ。



「……どうでも、いい。もう、疲れたよ……」


そのまま、腕の中に顔を埋めて瞳を閉じた。



お腹空いたな……
こんな時まで、お腹が空くなんて。
本当に、私って可愛くない。



「……おい」


低い声が、頭の上から落ちてくる。
でも、顔を上げる気力もなかった。


「紬」


返事をしない私に、蒼は小さく、ため息をついた。
それは、呆れているけれど、どこか温かい、不思議な響きの吐息。


「……そのまま消える気なら、勝手にしろ。……でも」


目の前に、スッと白い手が差し出される。

指先には、まだ微かに、歪みを押し戻した時の熱が残っているかのように、光っていた。


「……俺の目の前で勝手に消えられるのは、寝覚めが悪い。……来い。安全な場所へ連れて行く」


そっと彼を見上げた。


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