Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-
彼の水色の瞳が、暖炉の炎を映して、揺らぐように潤んでいる。
「……馬鹿な奴。……死ぬほど熱いぞ」
そう言いながらも、彼は私を押し返そうとはしなかった。
それどころか、私の背中に回された彼の腕は、まるで壊れ物を守るかのように、必死な力で私を抱きしめ返していた。
暖炉の火がパチパチと爆ぜる音だけが、静寂の中に響いている。
私は蒼の頭を膝に乗せ、手元にあった布で彼の額に浮かぶ冷や汗を拭き続けた。
何度拭いても、彼の体温は氷のように冷たいままだ。
「…紬、もういい。お前まで、冷えてしまう」
蒼は目を閉じたまま、かすれた声で呟く。
「ダメ。……蒼が温かくなるまで、このままにするって決めたから」
私は強がり混じりに言いながら、彼の髪を指先で優しく梳いた。
普段は金糸のような髪が、今は少しだけ大人しく、私の指に絡みつく。
彼がこんなにも無防備な顔で眠るなんて、誰が想像できただろう。
ふと、彼の首元に浮き出ていた青い紋様が、小さく明滅した。
それは彼の生命活動そのもののように見える。
「ねえ、どうしてそんなに一人で頑張るの? 街で会ったあの男たちも、みんな蒼のこと『番人』って呼んでた。……誰にも頼らず、ずっと一人でここを守ってきたの?」
蒼の睫毛が、微かに震える。
彼はゆっくりと目を開け、焦点の定まらない瞳で私を捉えた。
「……誰も、信用できなかったからだ。……この歪みは、他者の感情を糧にする。……誰かに情を移せば、そこから俺の心は食い荒らされる」
「……心が、食い荒らされ、る?」
「…………」
蒼は何も答えない。けれど、私の手を握る力に、少しだけ力がこもった。
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「……馬鹿な奴。……死ぬほど熱いぞ」
そう言いながらも、彼は私を押し返そうとはしなかった。
それどころか、私の背中に回された彼の腕は、まるで壊れ物を守るかのように、必死な力で私を抱きしめ返していた。
暖炉の火がパチパチと爆ぜる音だけが、静寂の中に響いている。
私は蒼の頭を膝に乗せ、手元にあった布で彼の額に浮かぶ冷や汗を拭き続けた。
何度拭いても、彼の体温は氷のように冷たいままだ。
「…紬、もういい。お前まで、冷えてしまう」
蒼は目を閉じたまま、かすれた声で呟く。
「ダメ。……蒼が温かくなるまで、このままにするって決めたから」
私は強がり混じりに言いながら、彼の髪を指先で優しく梳いた。
普段は金糸のような髪が、今は少しだけ大人しく、私の指に絡みつく。
彼がこんなにも無防備な顔で眠るなんて、誰が想像できただろう。
ふと、彼の首元に浮き出ていた青い紋様が、小さく明滅した。
それは彼の生命活動そのもののように見える。
「ねえ、どうしてそんなに一人で頑張るの? 街で会ったあの男たちも、みんな蒼のこと『番人』って呼んでた。……誰にも頼らず、ずっと一人でここを守ってきたの?」
蒼の睫毛が、微かに震える。
彼はゆっくりと目を開け、焦点の定まらない瞳で私を捉えた。
「……誰も、信用できなかったからだ。……この歪みは、他者の感情を糧にする。……誰かに情を移せば、そこから俺の心は食い荒らされる」
「……心が、食い荒らされ、る?」
「…………」
蒼は何も答えない。けれど、私の手を握る力に、少しだけ力がこもった。
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