Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-




「……帰さないで」



口から出たのは、自分でも驚くような素直な言葉。
蒼の肩が、驚きに大きく跳ねた。


「……覚悟はいいんだな。……俺は、お前を二度と元の灰色な世界へは戻さないぞ」



「……うん。…私、もう、蒼のいない世界なんて……」



言い切る前に、蒼は私の手首を掴み、自分の唇を私の掌に押し当てた。

冷たかったはずの彼の肌が、今は私の熱を奪い取って、少しだけ赤みを帯びている。



火照った空間の中で、二人の境界線が、ゆっくりと溶けていくのを感じた。



どれくらい経っただろう……────


蒼の顔色も大分良くなり、ホッと胸を撫で下ろす。


「蒼……、さっき自分の心が食い荒らされるって言ってたけど……」


本当なの?

言葉が、最後まで出なかった。
考えただけで、喉の奥がギュッとなる。

暖炉の火をじっと見つめていた蒼が、ゆっくりと視線を私に移す。その瞳には、隠れ家で私を守る番人としての、孤独な覚悟が宿っていた。



「……この世界は、強烈な『想い』に歪まされてできているんだ」


蒼は人差し指を立て、空中に淡い光の線を描く。
そこには、無数の影がうごめく景色が映し出された。



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