Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


「ここは、元の世界を追われた記憶や、誰にも届かなかった感情の吹き溜まりだ。…俺たち『番人』は、その歪みが他の世界を侵食しないように見張る存在だ」



「……吹き溜まり」


そんな場所が、あったなんて…
何かの作り話とか、神話の世界だと思っていた。


「歪みは、他者の感情を吸い取って強くなる。……だから俺たちは、情を持つことを禁じられている。誰かを愛したり、執着したりすれば、その『歪み』に俺自身の心ごと食い尽くされるからだ」



蒼は、自分の胸元を軽く叩く。
その青い紋様は、単なる模様じゃなかった。
彼の感情を封印し、冷徹でいるための“枷”だったのだ。



「……じゃあ、私といることは、蒼にとってすごく危険なこと、なの?」


「……そうだな」


蒼は視線を伏せ、私の手首を掴む。

彼の指は以前よりも少しだけ熱を持っている。


「…お前という『強い感情』がそばにあると、歪みが俺の紋章を狙いやすくなる。お前の感情は温かい。俺の枷を軋ませるほどに。
つまりお前は、俺にとって世界で一番甘くて、世界で一番危険な『糧』なんだ。紬を想うほど、俺は自分を食いつぶされる」


彼は不敵に笑うけれど、その瞳はどこか泣き出しそうに揺れていた。


「私の感情が…蒼を殺してしまうかも、しれないって事、だよね…」


「……歪みが俺たちを食い尽くすか。それとも、俺が歪みに食い殺されるか。どっちの結末が待っているか、俺にも分からない」



もう、理解したくなかった。

だって、それって……────



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