Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


「……オフロ?」


蒼が心底不思議そうに眉を寄せた。


「そう。私の世界じゃ、一日の終わりに温かいお湯に浸かって、疲れを癒やす習慣があるの。もう何日も入ってないから、なんだか落ち着かなくて」


私が申し訳なさそうに言うと、蒼は「面倒な生き物だな」と毒づきながらも、隠れ家の奥にある石造りの小部屋へと私を連れて行った。

彼が指先を鳴らすと、床に埋め込まれた大きな石のくぼみに、どこからともなく透き通った水が溜まり始める。

さらに彼が手をかざすと、水面から柔らかな湯気が立ち上った。


「すごい…」


「この屋敷の地下を流れる霊水だ。……少しはマシだろ。好きに使え」



蒼はそう言って、部屋を出ようとして……足を止めた。


「……何かあったらすぐ叫べよ。お前、のぼせて溺れそうだからな」


「子供じゃないんだから大丈夫だよ」


苦笑いしながら扉を閉め、私は一人、温かいお湯に身を沈めた。


「はぁ……」と思わず溜息が漏れる。



元の世界での立ち仕事や、異世界での逃走劇で強張っていた筋肉が、じわじわと解けていく。

ふと見上げると、天井の一部が吹き抜けになっていて、そこから紫色の光が差し込み、水面をキラキラと照らしていた。


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