Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-
私はふと昨夜の彼の言葉を反芻していた。
『お前を、俺の魂の半分にする』
どんな“好き”って言葉も、薄っぺらくしてしまうほどの、その重たい言葉が、今も耳の奥で心地よく響いている。
扉のすぐ向こう側には、いつも通り番人として立っているはずの彼の気配。以前なら、その気配に緊張していたけれど、今はまるで安心できる毛布の中にいるような感覚だった。
「……蒼?」
お湯から上がり、濡れた髪をタオルで拭きながら声をかける。
「……なんだ、溺れなかったか」
扉越しに、皮肉げな蒼の声が聞こえる。でも、以前のような突き放すような冷たさはない。私は扉に手をかけ、少しだけ隙間を開けた。
「上がったよ。ありがとう。おかげで、疲れが全部溶けたみたい」
隙間から覗くと、蒼は背を向けていた。けれど、私の気配を感じて、ゆっくりとこちらを振り向く。
その瞳は、昨夜の時のように、熱と微かな揺らぎを帯びていた。
「……顔色が、少しはマシになったな」
蒼が歩み寄り、私の頬にそっと指先を触れる。
湯上がりで上気した肌に、彼の冷たい指が触れる感触。それは背筋が震えるほど心地よく、私は無意識に彼の指に頬をすり寄せた。
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