Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


「わっ…分からない、気付いたらここにいて……」


絞り出すように答える。
嘘では無い。本当に分からないから。


しばらくの沈黙。
彼はじっとこっちを見たまま、動かない。

その視線が、やけに重たくて。


「迷い込んだ、か」


独り言のように、小さく呟く。
けれど、少しだけ困ったような響きだった。


「帰れ」


「……へ?」

「ここは、お前がいていい場所じゃない」


その言葉が、胸に引っかかる。
突き放されているのに、なぜか…
少しだけ、寂しそうに聞こえた。


「でも、帰り方が分からない……」


気付けば、そう口にしていた。
突然帰れなんて言われたって、こっちも訳が分からない。
どうやってここに来たのかも、どうしたら帰れるのかも、何も分からない。


それに、またあの毎日が始まるのかと思うと“帰りたくない”って気持ちもどこかにある。

夢なら早く覚めて欲しい。
ゆっくりお風呂に浸かりたい。


一瞬、彼の表情がわずかに揺れた気がした。
見間違いかもしれないほど、ほんの一瞬。


「……はぁ」


小さく息を吐くと、彼は視線を逸らした。


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