Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-


「面倒なのに引っかかったな…」

ボソッと呟く声。
でもその言葉とは裏腹に、完全に突き放す気配はなかった。


「こっちに来い」

「……え?」

「立て。ここに居ても仕方ないだろ」


どこからともなく、サワッと風が吹いた。
生暖かい、不思議な風。

彼の長い前髪が、ふわりと持ち上がり
瞳に光が差し込んだ。


硝子のような、淡い水色……────

やっぱり日本人じゃ、ない?

でも言葉通じてるし……


「早くしろ」

あぁ、物珍しさにまた見入ってしまった。
彼は怪訝そうに眉をひそめる。


立ち上がると、軽くふらっと目眩が襲う。
足元がぐらりと揺れた。
その感覚が、妙にリアルだと思った。


「……っ」

力が抜けて、視界がぼやける。

倒れる……────

そう思った瞬間、ぐいっと腕を掴まれた。

「危な……」

引き寄せられるようにして、体が支えられる。

間近で見る彼の顔。

やっぱり凄く綺麗な人……────

切長の目、筋の通った鼻、

それに、何色って言ったらいいんだろう。

月の光を溶かしたような、クリーム色の艶やかな髪。


ほのかに香る花の匂い。

しっかりとした感触と温度。

あまりにもはっきりしていて……────

息が詰まる。


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