Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-
彼は私の肩や腕にまで、自分の存在を刻みつけるように、執拗なまでにキスを落としていく。


その唇が通った場所すべてが、熱くて、ひりひりとした痺れに包まれていく。

彼は私の髪に顔を埋め、深呼吸するように何度も私の匂いを吸い込んだ。


まるで、私という存在を自分の肺に、自分の血液に、完全に溶かし込もうとしているみたいに。


私は彼の肩を抱きしめ、彼の背中に爪を立てた。

もう、ここから先には言葉なんて何もない。

ただ、互いの体温だけが、私たちが今、確かにここに生きているという唯一の証拠だった。


部屋の中には二人の荒い呼吸と、唇が重なる甘い音だけが溶け合っている。

蒼は、まるで私を飲み込んでしまいたいかのように、何度も、何度も唇を重ね、二人の世界を、甘い熱の渦の中へと沈めていった。


肌と肌が触れ合う場所から、彼の温もりがじんわりと伝わってきて、心臓の奥までが甘く溶けていくような感覚だ。


「……紬。疲れたか?」


蒼の声は、さっきまでの掠れた熱を帯びた響きとは違って、今はひどく柔らかい。


彼は私の髪をゆっくりとすくい、優しく耳にかける。その手つきが、番人とは思えないほど慈しみに満ちている。


「……ううん。すごく、幸せ」


私は嘘偽りのない本音を零し、彼の胸に手を置いた。

トクン、と一つ、彼が私を慈しむように心臓が跳ねる。


「そうか。…なら、良かった」


蒼はそう呟くと、私の身体をもう一度強く抱きしめ、自分の額を私の額に重ねた。

暗闇の中で、彼の水色の瞳がゆっくりと閉じられる。

その睫毛が私の頬をくすぐり、私はたまらなく愛おしくなって、彼の首筋を小さなキスで埋めた。


「…おやすみなさい」


「おやすみ」


彼は私の背中に腕を回し、まるで世界から私を守る結界を張るように、その身体で私を囲い込んだ。

彼が口づけを落とした首筋の刻印が、今は優しく、温かな光を放っている気がする。

彼の匂い、温もり、鼓動。

すべてが私を包み込んで、思考がゆっくりと霧の中に溶けていく。

ああ、なんて温かいんだろう。

たとえこれから、どんな過酷な現実が待っていようとも、今夜この瞬間の温もりがあれば、私は何度でも頑張れる。

そう、強く思った……────


.
< 41 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop