Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-
「……お前は、いつも俺の理性を狂わせる」
蒼はそう文句を言いながらも、その手つきは驚くほど優しい。
彼は私の首筋に残る紋章を、朝の光にかざして確かめるように、指先で愛おしそうになぞった。
紋章が、朝陽を受けて朝露のように淡く煌めく。
「……このまま、二人で世界から消えてしまいたいくらい」
「……私も」
蒼の胸に顔を埋めると、彼の心臓が、昨夜よりもずっと穏やかに、確かに刻まれているのが分かった。
これまでの“番人と餌”という壁は、もうどこにもない。
私たちはただの、恋人同士のような朝を迎えている。
「……まだ、こうしていていいか?」
蒼は私の首筋に顔を埋めたまま、猫のように喉を鳴らす。
昨夜あんなに熱く求め合っていた彼が、朝になってこんなに甘えてくるなんて、誰が想像できただろう。
私は彼の金糸のような髪に指を絡め、ゆっくりと梳いた。
彼はその心地よさに抗えないのか、私の肩に顎を乗せたまま、微睡みの中に沈んでいく。
「……ずっと、こうしていたいね」
「……そうだな。ここ以外の場所なんて、もうどうでも良くなる」
蒼は私の腰に腕を回し、身体を密着させる。
昨夜刻んだ紋章が、彼の体温に触れて、じわりと心地よい熱を伝えてくる。
それは、私と彼を繋ぐ命の回路。
彼は時折、寝ぼけたように私の耳元や頬に、羽のような軽いキスを落とす。
唇が触れるたび、肌が粟立つ。それは昨夜の激しいキスとは違う、朝の静寂に溶け込むような、ひどく優しい愛撫だった。
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