Incomplete -この世界にいない君に、恋をした-
「変な奴」
低い声が、すぐ近くで落ちた。
彼はじぃっと私を見つめている。
私はそのまま、石のように固まってしまう。
触れられている腕から、じんわりと熱が伝わってくる。
「顔色悪いな」
長い指が私の頬に触れた。
鼓動が、うるさいくらいに耳に響く。
「そのまま掴まってろ」
「え……?」
眩しいくらいの光がブワッと広がり、思わず目を閉じた。放射熱のような熱さが身体全体を覆う。
何が起きているのか分からないまま、ギュッと彼の服を握った。
どのくらい経っただろう。
ほんの数秒だったかもしれないし、数十分かもしれない。
さっきまでの無音が嘘みたいに、やわらかな風が頬を撫でた。
ゆっくりと目を開ける。
「わ……」
思わず、声が漏れる。
そこには、見たことのない景色が広がっていた。
空は紫がかったピンク色。
黒い海の上に、静かに浮かぶ小さな船。
煉瓦造りの街並みの向こうには、濃い緑の山々が連なっている。
行き交う人々のざわめき。
異国のようで、どこでもない場所。
一体どこの国に来てしまったの?
そう思った瞬間、ふと違和感に気付く。
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